2008年02月06日

◆不安劇場 

ヒット商品応援団日記No239(毎週2回更新)  2008.2.6.

冷凍餃子への毒物混入事件が起き、更に異なる第二の毒物混入が発表されたが、相変わらずマスコミによる犯人探しが行われている。毒物研究者や流通専門家を動員し、自ら実験まで行う犯人探しである。報道のワイドショー化を超えた謎解きといった「不安劇場」そのものだ。一つひとつの事実報道に間違いはないのかもしれないが、そうした部分・断片情報の受け手・視聴者にとって、曖昧であればあるほどパズルを解く想像へ創作者へと向かってしまう。特に、各TV局は競うように報道し、これまた一極集中化現象が起きている。冷凍餃子毒物混入事件については既に警察による薬物指紋の解析など科学捜査も始まっている。こうした過剰情報を流すマスコミに加担するようであまり書きたくはないのだが、最近の生活者心理、市場心理の動きについては書いてみたい。

2年前に「うわさの法則」というテーマで生活者心理について私は次のように書いた。
『こうした過剰反応の連鎖については、「うわさとパニック」など既に多くのケーススタディ、社会心理における研究がなされている。ここでは、その原点ともいうべき「うわさの法則」(オルポート&ポストマン)を簡単に説明してみたい。
R=うわさの流布(rumor), I=情報の重要さ(importance), A=情報の曖昧さ(ambiguity)
< うわさの法則:R∝(比例) I×A >  
つまり、話の「重要さ」と「曖昧さ」が大きければ大きいほど「うわさ」になりやすい、という法則である。但し、重要さと曖昧さのどちらか1つが0であればうわさはかけ算となり0となる。』

今回の事件に当てはめてみると、情報の「重要さ」は幼い子供が重体となったということから、人命にかかわる重要さである。もう一つの情報の「曖昧さ」については、第二の毒物混入が判明し、現時点においてはその広がりは曖昧なままの状態である。「うわさの法則」どおり、「2チャンネル」には複数の掲示板が立てられ、食品テロから始まりJT株の空売り背景説までいくつかの「うわさ」(事実かどうか判明していなという意味)が書き込まれている。

日経POSデータによると、事件報道後4日間で冷凍食品全体では36%の減少、冷凍餃子では61%の減少という買い控えが起きていると報じられた。一方、家庭で餃子を作るのであろう餃子の皮が売れているという。昨年、ペットフーズへの毒物混入事件が米国で起き、チャイナフリーという一種のプロモーション(中国製ではありませんという販促策)が行われたが、日本においても一部では実施されるであろう。しかし、流通も、生活者も、原因解明までは「控える」とした行動だけで、「うわさ」による大きな風評被害やパニックなどは起きてはいない。そうした意味で、過剰な報道のマスコミとは距離を置いた至極自然で冷静な対応である。

ここ数ヶ月、沢尻エリカの発言や最近では「羊水が腐る」と言った倖田來未発言に対し、一斉にマスメディアはパッシングしてきた。鬱屈した不安解消として、誰かを「悪者」に仕立てるといった風潮に乗ってしまったと思う。単なる、世間知らずで、妊娠の知識もないタレントであることが露呈しただけであり、メディアを使っての非難には「過剰さ」と「物語づくり」の単純さが読み取れる。善・悪、好き・嫌い、真・偽、こうした二元単純化による情報の組み立て方には一種の分かりやすさはあるが、コトの本質にせまろうとはしない。
不安という見えない舞台に立たされていることは事実である。であればこそ、犯人探しではなく、生活の中に組み込まれたグローバリズムの本質に迫る情報であって欲しい。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 14:57Comments(0)新市場創造