2006年08月13日

◆好きは未来の入り口

 ヒット商品応援団日記No89(毎週2回更新)  2006.8.13.

前回「現代隠居文化」のところで自由時間消費の多くは「旅」となると書いた。団塊世代による最大マーケットとなる「旅市場」について、もう少しどんな旅が生まれてくるか仮説とともに予測をしてみたい。まず第一に、「誰」との旅かという仮説である。団塊世代の夫婦はその多くが同世代(同時代)結婚であり、友達夫婦と呼ばれ、団塊ジュニアとの関係でいうと一時期注目された「母娘」消費のように「仲良し親子」のような互いを認め合う関係である。つまり、戦後世代のフラットな夫婦関係である。ここ一年ほど前から、年金分割を含め定年離婚がニュースとなっているが、離婚率(離婚絶対数ではない)は低いと思う。旅の中心は「夫婦単位」となる。ゴルフでいう「ツーサム」ではないが、「二人」がキーワードとなる。既に、映画館においてはシニアの「二人割引」が実施されており、多くのシニアが映画を観に行くきっかけとなっている。全日空の時間帯割引の新商品「旅割」ではないが、「夫婦割」といった単位割引がますます盛んになり旅市場全体を牽引することになる。こうした夫婦単位の旅と共に盛んになるのが「三世代の旅」と「個人の旅」である。この三世代の旅は「記念日」市場と重なって出てくると思う。例えば、孫の誕生日祝い、孫の入園祝い、といった「孫」市場の一つとして出てくる。団塊世代にとっては「良き人生時間」を楽しむこととなる。そして、団塊世代から孫への贈与市場は大きく、記念日市場としては最大のものとなる。金額としては旅も大きいがキッズジュエリーやホビーなどその裾野は広く大きい。さて、個人の旅であるが、夫婦それぞれ人生テーマに沿ったものとなる。陶器に興味のある人は、最初は陶芸教室に通うであろう。そして、次第に興味は深くなり、いつしか自宅に電気窯を備え器を焼くようになる。さらに、日本国中の窯を巡る旅へと出かけもするであろう。一時期、家庭画報が主催していたが、窯元を訪ねその窯で焼いた器で食事をするツアーである。ところで、団塊世代の少年期は、多くの新しい商品が続々と市場化された時代である。一眼レフカメラ、ステレオ、ギター、青年期に入れば車やバイクなど高額でなかなか手に入らなかった商品である。やっとそうした商品を手にすることができるようになった。カメラ好きは、今やヴィンテージとなったコンタックスを持ち、カメラ小僧になって旅に出る。少年少女に再び戻っていくのだ。ある意味で「失った何か」「失った時」を求めた旅となる。外側からはなかなか見えない旅である。見知らぬ旅人は、コミュニテジの中へ、大通りから中通へ、横丁から路地裏へと。コミュニティに住む人にとって、おそらく不審者のように見えるかもしれない。実は、私は10年ほど前、旅の小冊子に次のように書いた。

[好き]は未来の入り口
自分というものを無理なく自然体で見つめ、自分の時間を取り戻し、
好きなもの、好きな時間と暮らす時代がやってきた。
休日という視点に立てば、与えられた休日から、自分で創っていく休日へと、
生活は自己表現の場へと変わってきた。
日頃、歩き慣れている道でも、春になればコンクリートの端から小さな
自然が顔をのぞかせている、そんなことに気づく[自分]との再会によって。
あるいは、ふと目にした懐かしい[言葉]や[食べ物]に、
故郷の風景の中の子供の頃の自分を思い浮かべたりして、
仕事とか社会とかに奪われていた自分を見つめ直す。
なにも肩肘をはって自分を見据えるのではない。日常の何の変哲もない
風景の中に佇んで、そっと耳を澄ましてみればよいのだ。
実体の無いイメージとスタイルが先行し、そんなモノばかりに囲まれて、
私達の自身の創造力が自家中毒を起こしている様が見えてくるだろう。
つまり、従来決められていたものを一回見限って、
本当に[好き]なものは何か、探しにいく時代となったのだ。
もし今の自分に[好き]を見つけることができなかったら、[時]を
遡ってみるのもよい。子供の頃何が好きだったか、熱中したのは何だったのか?
思い返してみれば、それらの[好き]が今のあなたを形成していることに気づく筈である。
時という埃をはらいのけて、あなたの[好き]を物置から引っ張りだし、
今一度磨いてみる。それこそ、失われた[私]を取り戻し、明日の自分を創り直す旅となる。

少しカッコつけた情緒的な文章であるが、団塊世代にとっても「好き」を入り口に人生の旅に出る。限定された時間という未来ではあるが、自分で創っていく休日である。そして、マーケティング&マーチャンダイジングの最大課題は、この「好き」の発見にある。次回はこの「好き」のテーマにふれてみたい。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:51Comments(0)新市場創造