2006年06月26日

◆人力経営 

ヒット商品応援団日記No75(毎週2回更新)  2006.6.25.

ここ1年程の間に相次ぐ経済事件が起きた。一連の耐震偽装事件、東横インの条例違反、ライブドア事件、村上ファンド事件、最近では社保庁による情報改ざん、シンドラーエレベーター事件もそうだと思うが、全ての事件に通底しているのが「経済合理性の追求」である。1990年代半ば、IT技術を活用した革新的なマーチャンダイジングやマーケティングによって、市場を一変させた企業、ブランドが相次いだ。例えば、ユニクロ、楽天市場、・・・・・・それぞれの企業が果たした役割は知っての通りである。そして、今遅れていた業界、市場において2000年前後の規制緩和を一つの契機としてこうした経済事犯が起きてきた。経済合理性の追求はどの企業においても当たり前のことであり、利益の最大化のためにこれからも必要な視座である。しかし、一見非経済的に見える戦略を採り高収益を上げている企業も実は多い。マスコミにとって、話題にならないテーマであり、取り上げることはまれである。彼らも、視聴率や販売部数という目標を持っているからと思う。結果、類似したテーマ、類似した事件、類似した人に集中し、ユニークな経営をしている企業が表舞台へと出てくることは少ない。
一見非合理的に見えるが、実は理にかなった企業に未来工業という会社がある。岐阜にある電設資材メーカーで製品点数は約16,000点と極端に多く、売れない製品を作りつづけている。そこにはアイディア溢れる「小さな違い」の製品をどこよりも先行して作る現場経営の仕組みがある。この発想は、非常識経営と言われているホームセンターのジョイフル本田と同じである。「死に筋」だからこそ扱うとして、ねじ、釘、ビス類をバラ売りし、「ジョイフル本田になくてどこにあるんだ」と言われるまでになったケースと同じである。売れ筋を追いかけると店はどんどんつまらないものになってしまうと言って、売るものは「夢」ですというジョイフル本田と「楽して儲けよう」というアイディア溢れる小さな違いを創造する未来工業は、共に一般的な経済合理主義を超えている。
経済合理性を別の言葉に置き換えると、コストパフォーマンス、システム化、それらを貫くIT技術といった方法が盛んに言われ取り入れられてきた。しかし、同時にIT依存には限界があると認識を改めはじめている。一時期、より顧客に近いところのビジネス、中抜きビジネスとして通販が脚光を浴び、誰もが参入した。周知の通り、分厚い総合カタログはほとんど存在していないか、専門カタログとして再編されている。しかし、通販カタログで今なお元気なのがカタログハウスの「通販生活」である。勿論、コンセプトは明確であり、特定顧客を対象としたビジネスであるが、この通販生活の最大特徴は実は顧客接点である「お便りありがとう室」にある。顔が互いに見えないビジネスであることから、見えるように見えるようにと、いただいたお便りには必ず「手書きの返事」でお応えしている。こんな「アナログ的」運営を行っているのが通販生活である。未来工業もジョイフル本田も、通販生活にも共通して経営のコアとなっているのが「人力」である。しかも、顧客接点現場での経営、ある意味で「人力経営」、人の成長が経営を支えているとする企業文化と言えよう。どんなに、顧客データベースがあろうと、効率よいシステムが組まれようとも、コストパフォーマンスの良い地域で生産しようとも、常に経営の中心には「人」を置いているという単純な事実である。このことを忘れた時、経済事件が生まれる。(続く)

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Posted by ヒット商品応援団 at 17:09Comments(0)新市場創造